2025年総会記念講演

ニュース「奈良の声」浅野善一さん記念講演(要約)

情報公開制度を使い身近な行政に変化を!

 知る権利ネットワーク関西の6月22日の定期総会の記念講演は、奈良県でネット・ニュースを年間約百本報道している「ニュース『奈良の声』」の浅野善一さんの「行政の変化につながる報道―開示文書を糸口に埋もれた問題に光を当てる」であった。「奈良の声」の記者は、浅野善一さんと妻の詠子さんの元奈良新聞記者の2人だけ。新聞やテレビが扱わない身近な行政の問題を自治体の情報公開制度を使って情報を収集して分析、報道する姿勢は新たなジャーナリズムのあり方を提起している。

 要綱に違反して補助金を交付

 講演では、情報公開制度を使う事例を具体的に紹介した。例えば、補助金をめぐる問題では、補助金交付要綱とその申請書類を開示請求し、両者を突き合わせてその矛盾を明らかにする方法をとった。安堵町は、補助金交付要綱の要件に合わない補助金を業者の組合に支出していた。県の産業廃棄物処理事業補助金要綱に従えば、町は持ち込まれた産業廃棄物を自前の処理場で処理するか、産廃の専門処理業者に委託しなければならない。ところが、町は、産廃を出す側の業者の組合に県からの年間30万円余の補助金を交付していた。宇陀市でも、県の産業廃棄物処理事業補助金を使う焼却施設の指定管理者が、市との契約で事業報告書に記載が義務付けられている業務日報が未提出だった。業務日報は、廃棄物の持ち込み量などを記載するもので、手数料の請求にも必要なのだが、「奈良の声」が指摘するまで未提出が続いていた。

 自治会が絡んだ補助金では、御所市などがつくる一部事務組合が、ごみ処理施設周辺の自治会に3億円を超える補助金を交付したが、補助金は自治会に渡しっぱなしで、補助対象の太陽光発電装置の設置、公民館の新築などが3年を経ても事業が完了しないままであった。一部事務組合に自治会との協定書、自治会の事業完了報告書などの開示を求めた結果、判明した事実である。

 奈良市では、自治会行事などに使うことを目的に、自治会に加入一世帯当たり360円を交付している。かつて交付金の不正取得の事例があったため、その実態を調べるため、市に返還命令書を開示請求すると、非加入者の分も加えて世帯数を水増した例がいくつも出てきた。

 県内の水道事業の一本化に残る疑問

 県は、奈良盆地の市町村(奈良市など除く)の水道を一本化する事業に取り組み、今年4月には水道料金が統一された。吉野川上流の大滝ダムの水を使い、スケールメリットや国の補助金などで800億円分の効果があり、その分、水道料金が安くなるというのがふれこみ。ところが、それが突然、500億円に下方修正された。真相を探ろうと、県広域水道企業団の設立準備協議会の会議資料などを開示請求すると、水道の敷設年度が不明の水道管が800㌔もあることがわかった。さらに、改正水道法が義務付けている水道台帳が未整備の市町村も数か所あった。実像を示すデータがないまま、市町村議会などで「水道料金が安くなる」と説明されてきたわけである。水道管の老朽化対策や水源ダムの堆砂除去費など今後必要となる経費をどう計算しているのだろうか、疑問が残っている。

 奈良市と大和郡山市は22年2月、突然、リニア新幹線駅設置の共同要望書を荒井前知事に提出した。そこで両市と県のメールのやりとりを開示請求すると、両市ではなく、その文面は、県が主導して作成されたことがわかった。山下知事就任でとん挫した平城宮祉隣接地の歴史体験学習館計画も、担当課による知事レクの記録を調べると、荒井前知事の肝いりだったことがわかった。

何人も開示請求権があるのは県内39自治体のうち10自治体だけ

 調査報道の壁になるのは、住民以外は開示請求も開示申し出もできない市町村が、県内39自治体のうち23市町村もあることである。開示請求権が「何人も」となっているのは10市町だけ。安堵町の例は、住民訴訟を起こした住民の開示請求で判明した。宇陀市も制度上、市民でない浅野さんは開示申し出もできない。結局、市の情報公開請求窓口と交渉し「報道機関」として情報提供を受けたという。

 「奈良の声」では、県内12市を対象に生活保護の相談と実際の申請との比率(申請率)を調べたことがある。すると、新型コロナウィルス感染症が拡がった2020年度、一部の市の申請率が急激に低下していた。「(申請希望者を説得して追い返す)水際作戦か」と疑ったのである。

 生活保護費は4分の3が国負担、残りは自治体負担である。一方、国の新型コロナ特例貸付(20~22年度)は、国が全額負担で、自治体の負担を減すため、生活保護申請希望者を社会福祉協議会が窓口になる特例貸付に誘導する可能性があると考えた。ところが、県社会福祉協議会(県社協)は「個別の額は明らかにできない」とし、いくつかの社協も公開しない。そこで全国の状況を調べてみると、東京都や新宿区、福井市、愛知県豊田市の社協には独自の情報公開制度があることを発見した。

 ローカルメディアの役割の大きさを実感

 県は昨年6月から、香芝市は今年6月から、情報公開請求に手数料300円が必要になった。また、香芝市では、諮問機関の会長に市議会議長が就いていたので会議の録音テープを開示請求したら「廃棄した」。「行政文書ではないから保存期間は定めていない」という理由であった。

 情報公開制度は一般市民が使える制度ではあるが、何をどのように請求し、どう分析し、みんなに広く伝えるのは、一般市民では容易ではない。身近な問題に取り組み、緻密な行政監視を行い、ジャーナリズムのノウハウと媒体を持つローカルメディアの役割の大きさを実感させる記念講演だった。

(報告:神野 武美)